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「知る」— Finale最前線


“ヒッチコック映画に新しい命を”

ロサンゼルスを拠点とする作曲家/ピアニストのマイケル・モルティッラ(Michael Mortilla)氏は長年のFinaleユーザーです。テレビ、ラジオ、コンサート、舞台および映画向けの音楽を作曲する傍ら、映画芸術科学アカデミー(Academy of Motion Picture Arts & Sciences)からの委嘱を受けて広範囲に渡る活躍を続けています。
(註:映画芸術科学アカデミー…アカデミー賞の実施、映画産業の発展に寄与する活動への助成などを行う世界最大級の映画業界団体)

彼はこのほど、ヒッチコックの映画『恐喝(ゆすり)[原題:Blackmali]』に新しい音楽をつけて現代に甦らせるというプロジェクトに参加し、70分にも及ぶスコアを完成させました。『恐喝』は、1929年の作品でイギリス初のトーキー映画となりましたが、その当時まだ音響設備の整っていなかった映画館向けに、サイレント版も用意されていました。このサイレント版の方に今回全く新しく音楽をつけたわけです。

MakeMusic社の広報担当スコット・ヨーホ(Scott Yoho)氏は、マイケルにインタビューを実施、このプロジェクトの経緯や音楽制作の中でFinaleが果たした役割について話を聞くことができました。

スコット:このプロジェクトに参加することになったきっかけは?

マイケル:もともと私は、何年も前から映画芸術科学アカデミーと一緒に仕事をしてきました。2011年に、ヒッチコックが最初期に携わったという作品『ザ・ホワイト・シャドウ[原題:The White Shadow]』のフィルムがニュージーランドで発見されたとして映画界を賑わせましたが、この作品を復元するプロジェクトが進行した際に映画芸術科学アカデミーから音楽制作を委任されたのです。もちろん、この音楽もFinaleを使って作曲しました。ちなみにこの作品は全米映画保存基金から9月にリリースされることになっています。そんな経緯で、今回の『恐喝』プロジェクトにも私が加わることになりました。


Scenes from The White Shadow, used with permission from the NFPF.

スコット:ヒッチコックが『恐喝』を2バージョン用意していたことが興味深いのですが、それらの違いはどんなところなのでしょうか?

マイケル:私は、2つのバージョンにおいて描写に微妙な差が生じていることに注目しました。物語では、主人公の女性と、その女性が殺してしまうことになる行きずりの画家が登場します。画家が女性を誘惑して自分のアトリエに誘い込もうとするシーンがあるのですが、トーキー版ではその画家がプレイボーイであることや、その誘いに女性が抵抗する様子が描かれます。しかしサイレント版では彼女が抵抗するシーンはなく、彼女の心理状態がわからないようになっています。
また別のシーンでは、芸術家がピアノを演奏し歌う場面があるトーキー版に対して、サイレント版ではそういった演出はありません。他にも、この2つのバージョンには多くの違いが見受けられます。よって、映画芸術科学アカデミーもこの2バージョンを「別の作品」と定義しています。

スコット:今回サイレント版に音楽をつけるにあたって、トーキー版からインスピレーションは受けましたか?

マイケル:トーキー版にはフルオーケストラが使われています。ただ、その音楽は気まぐれで、情景描写的なものです。私は、今回の音楽では、登場人物が何を考えそしてどんな行動を起こすのかを想起させるような音楽にしたいと考えました。情景を描写するのではなく人間の内なるものを音楽に投影する。ですから私はあなたの質問には敢えて「No」と答えましょう。この新しい音楽は、1929年のトーキー版から何らかのガイドやインスピレーションを受けて作られたものではありません。

実際の楽譜実際の楽譜(クリックで拡大)

スコット:では、その新しい音楽はどのように発想していったのでしょうか?

マイケル:まず私は、登場人物たちの深い心理状態を探るように努力しました。なぜならそのことだけが音楽を特長づける唯一の材料だと思ったからです。私は、音楽をシーンの後ろに掛かっている「壁紙」と捉えてほしくはありません。音楽はストーリーを手助けする存在です。誇張表現もいけない。あくまで自然な形でストーリーや登場人物に働きかけなければなりません。
特にこの『恐喝』では、執拗な繰り返しによって緊張感を煽る描写など、何か円形の構造を持っているように感じられました。それがヒッチコック独特の手法なのかも知れません。そのため私のスコアにもその要素が顕われています。ですから、実際の曲作りにの際にはFinaleのリピートツールが大いに役に立ちました。

スコット:貴重なエピソードとスコアのご提供、ありがとうございました。ところで、Finaleはいつ頃からお使いでしたか?

マイケル:1996年に、アトランタオリンピックの芸術祭で上演されたチャップリンの映画用の音楽を依頼されました。その頃はシーケンスソフトで音楽を制作していて、楽譜の状態にはなっていませんでした。そのため私はFinaleを手に入れて、シーケンサーのデータを楽譜化していったのです。それがFinaleを使い始めたきっかけです。 その後、私の作曲スタイルに転機が訪れます。シカゴ交響楽団と仕事をした時なのですが、私はそのプロジェクトで3つの作品を携えていました。うち2つはシーケンサーのデータをFinaleにコンバートして楽譜化したもの、そしてもう1つは最初からFinaleで作成したものでした。その時私はあることに気付いたのです。最初からFinaleで書いた曲は、とても短時間で完成させることができましたし、後からの修正が殆ど必要なかったのです。この一件以来、生身のプレイヤーが演奏することがわかっている作品は100%の工程をFinaleで作成するようになりました。

スコット:では最後に、Finaleで最も気に入っている点は?

マイケル:Finaleの愛すべきポイントはたくさんあります。特に私のように元々五線紙とペンで作曲をしていたような音楽家にとってこれ以上のツールはありません。私は他の楽譜作成ソフトも試してきましたが、仕上がりのクオリティはもちろん、深みや柔軟性といった感性の部分においても私の希望を叶えるものはありませんでした。

(インタビュー終わり)

<参考>
マイケル・モルティッラ(Michael Mortilla)氏のホームページ(英語)

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