連載「楽譜浄書のはなし」

楽譜を綺麗に清書することを「楽譜浄書(じょうしょ)」といいます。

Finaleはこの楽譜浄書のルールに従って外観を自動的に読みやすく整えてくれるわけですが、自動で処理しきれない部分については手動で調整する必要があります。その際に楽譜浄書のルールを知っているのと知っていないのでは、仕上がりに雲泥の差が出るものです。

本連載では、Finaleをより深く活用していただくために最低限必要な楽譜浄書のルールをご紹介していきます。

Vol.3:記号のはなし

3回目は「記号のはなし」です。

料理に例えると、これまでお話ししてきた五線が料理を入れるお皿やお椀、音符は中に入っている野菜やお肉、魚などの素材、そして今回お話しする記号は「調味料」に当たるでしょうか。

書かれている音楽の「味」を決める、大切な記号です。ていねいに、また演奏者にわかりやすいように書く必要があります。

ー目次ー

1. 変化記号 その1
2. 変化記号 その2
3. タイとスラー
4. アーティキュレーション
5. 演奏指示記号
6. 関連記事リンク集

 


1. 変化記号 その1

シャープの場合は5度間隔、フラットの場合は4度間隔

まずはじめは、音符の高さを変化させるシャープやフラットといった変化記号です。変化記号には、大きく分けて2つのタイプがあります。

まず1つ目が、五線の左端に記される「調号」です。この調号によって、以降の音符を演奏する高さが決まります。調号は、ただ必要な数の変化記号を並べればいいのではなく、きちんと記す順番が決まっています。

左から、シャープの場合は5度間隔の「F-C-G-D-A-E-B(ファ−ド−ソ−レ−ラ−ミ−シ)」、フラットの場合はその逆で4度間隔の「B-E-A-D-G-C-F(シ−ミ−ラ−レ−ソ−ド−ファ)」となります。

垂直に並べると記号同士が重なって読み取りづらくなってしまいます。離れすぎない、ほどよい距離を保って、少しずつ右にずらして書きます。

転調

楽譜によっては、途中で調号が変わる場合があります(「転調」といいます)。その場合は、必要な箇所に新しい調号を記します。

このときもルールがあります。シャープ系からフラット系、またはその逆にフラット系からシャープ系の調に転調する場合は、直前の調号を取り消すナチュラルを書いてから、その右側に新しい調号を書きます。

同じシャープ系からシャープ系、またはフラット系からフラット系への転調で、変化記号の数が増える場合はナチュラルを書く必要はありません。新しい調号を書くだけでOKです。

逆に変化記号の数が減る場合は、先に取り消しのナチュラルを書き、その右側に新しい調号を書きます。

取り消しのナチュラルも、先ほど説明した「F−C〜(フラットの場合は「B−E〜」)に従います。

ちょうど段の変わり目で転調する場合は、直前の段末に予告の調号を記して注意を促します。取り消しのナチュラルが必要な場合は、この予告の調号に記します。

「小節線自動処理」プラグイン

楽譜の途中で調号が変わる際は、その直前の小節線を複縦線にして注意を促すことがあります。Finaleでは「小節線自動処理」プラグインを使うと、自動で処理することができます。

 


2. 変化記号 その2

臨時記号

変化記号の2つ目は「臨時記号」です。調号と違い、「臨時に」付けられる変化記号のことです。対象となる音符のすぐ左脇に書きます。

臨時記号の場合は、シャープ、フラット、ナチュラルのほかに、ダブルシャープやダブルフラットも使われます。どの記号の場合も、対象となる音符がハッキリとわかるよう、記号の中心が符玉の中心にそろうように、真横に配置します。

ただしフラット、ダブルフラットの場合は記号全体ではなく、下側のふくらんでいる部分の中心が符玉の中心にくるように揃えるとバランスよく見えます。上下にずれたり、音符から離れすぎてしまうのはNGです。

加線のつく音符では、臨時記号と加線がくっついてしまわないように気をつけます。

和音内では可能な限り臨時記号を縦に揃えて

和音のなかの複数の音符に臨時記号をつけたい場合、基本的には「可能な限り臨時記号を縦に揃えて」配置します。

ただ臨時記号を付けたい音符同士が近いと、音符よりも縦に長い臨時記号はどうしても重なってしまいます。こういう場合は、少しずつ左にずらして書きます。

順番としては、まず、1番上の臨時記号を書き、縦に揃えられるものがあれば次に、あとは上から順に少しずつ左にすらして書きます。その際も、縦に揃えられるものがあれば、縦に揃えて配置するようにします。

臨時記号が込み入った楽譜

臨時記号は「同一小節内の後続の同じ高さの音符にのみ有効」です。ただ、こんなふうに臨時記号が込み入った楽譜では、瞬時に判断するのがタイヘン!

こういったときは、同一小節内、同じ高さであっても、あらためて臨時記号を示す場合があります。

また、臨時記号で変化した音符が次の小節でもとに戻る場合や、調号ですでに変化している音符にも、あらためて記す場合があります(譜例水色で表示)。このように本来は記す必要がない変化記号をFinaleで「親切臨時記号」と呼んで、通常の臨時記号と区別しています。

楽譜によっては、親切臨時記号は( )で括って記されることもあります。

 


3. タイとスラー

タイとスラー

パッと見た感じ、タイとスラーはとてもよく似た形をしていますね。でも、タイの場合は必ず「同じ高さ」の「2音」を結びます。そのため、必ず水平に書かれます。

それに対してスラーは「高さの異なる」「2つ以上の」音符を結びます。また、スラーの方がよりふくらみを持たせて書くときれいです。

なかなか難しいのですが、スラーがきれいに書けると、楽譜全体が「美しく」なります。基本は「五線に重ねない」「フレーズの流れに沿う」です。

たとえば上昇するフレーズなら右上がりに、より低い音符に向かう場合は右肩下がりに、という具合です。

タイもスラーも符頭側につけるのが基本

書く位置は、タイもスラーも「符尾と反対側」つまり符頭側につけるのが基本です。つまり前回おはなしした符尾のルールに従うと、第3線から上の音符には上向きのタイ(またはスラー)、第3線より下の音符には下向きのタイ(またはスラー)がつくことになります。

スラーで符尾の向きが上、下、混在していて向きに迷うような場合は、「音符の上」が基本です。

気をつけるのは、どちらも五線に重ねて書かないこと。読み取りづらくなってしまいます。

和音の場合も基本は「符尾と反対側」です。ところがタイの場合、和音の中の符頭にそれぞれ個別につけたい場合があります。その場合の向きの決め方は和音に含まれる音符の数によります。

  • 2音の場合
    一番外側の音符に基本の向きでタイをつけたら、2つ目の音符には反対向きのタイをつけます。
  • 3音の場合
    第3線を基準に、向きを決めます。
  • 4音の場合
    上向き、下向き、それぞれ2つずつが基本です。
2度音程が含まれる場合はそこを境目に向きを反転すると重ならずにきれいに書ける

そのほか、2度音程が含まれる場合はそこを境目に向きを反転すると重ならずにきれいに書けます。また、3音以上の和音で、音程が開いている場合は、まとまっている音符でタイの向きをそろえて書くときれいです。

複声部の場合は簡単です。符尾と同様に、タイやスラーも声部ごとに上、または下に書き分ければOKです。

ハイハットをタイでつなげる

ところで、これはタイでしょうか? それともスラーでしょうか?

両側の音符がどちらも同じハイハットを示す音符なので、答えは「タイ」です。

4分音符2つ分伸ばすのではなく、タイですから2回叩くわけでもありません。この場合は、1つ目の音符のタイミングでオープンで叩いたハイハットを2つ目の音符のタイミングでクローズにする(音を切る)ことを指示しています。2つ目の音符は、「ジャーン」の「ン」の位置を示しているわけです。

余韻を残す演奏を指示するタイ

また、相方の音符がありませんが、これもタイの1つです。「音をぷっつり切らないで、余韻を残して演奏してほしい」という作曲者の意図を示すために、こういったタイが使われることもあります。

この場合も、必ず「水平に」書きます。上や下に傾いて書くと、楽器によってはグリッサンドなど、別の奏法記号に間違われていしまうこともあるので注意が必要です。

 


4. アーティキュレーション

アーティキュレーション

スタッカートやアクセントなど、音符に個別につけるアーティキュレーションは、「符頭側」に「符玉と中央揃え」で書くのが基本です。

ただし、歌詞がつく楽譜の場合は音符の上につけられることもあります。また複声部の場合は、声部ごとに上または下に書き分けられます。

アーティキュレーションは、1つの音符に複数の記号が付く場合や、また、スラーやタイと重なることも。そういう場合は、より重要な記号ほど符玉の近くになるように配置します。

ところでスタッカートって、何種類ぐらいあると思いますか? ベートーヴェンの場合、手書き譜の研究などから実に5種類ものスタッカートを使い分けているそうです。

もっともポピュラーなドット、楔形(くさびがた)のほかにも縦棒、雨垂れ形などなど。それぞれに演奏方法も異なるそうです。機会があったらじっくりと見てみてください。

 


5. 演奏指示記号

文字による演奏指示記号の配置は「テンポは五線の上」「音量と表情は五線の下」が基本

文字による演奏指示記号の配置は「テンポは五線の上」「音量と表情は五線の下」が基本です。

大譜表を使うピアノ譜の場合は少しだけ異なります。テンポ関連の記号のなかでも、rit.やaccel.などの速度変化を指示する記号は大譜表の真ん中に書きます。

また、ペダル記号は足で操作するものなので、視覚的にも分かりやすいよう大譜表の下に記します。

「ボーカル用強弱記号」ライブラリ

また、歌詞つきの楽譜の場合も、五線下の歌詞との衝突を避けるために、音量や表情を指示する記号もすべて、五線の上に配置されることがあります。

Finaleでも、「ボーカル用強弱記号」というライブラリが用意されています。これを読み込むと、五線上に配置するように設定された強弱記号カテゴリが読み込まれます。

Vol.4は最終回、レイアウトのはなしです。

楽譜浄書のはなし vol.1 | vol.2 | vol.3 | vol. 4

<連載著者:スタイルノート楽譜制作部>

出版用楽譜制作に携わる。市販のピアノ教則本や歌集などの本格的楽譜から音楽理論の専門書、音楽教育書、児童書楽譜の制作、譜例なども手がける。

 


6. 関連記事リンク集

 

《連載「電子楽譜のはなし」》

《連載「楽譜浄書のはなし」》

《連載「DTMのはなし」》

《楽譜作成ソフトウェアの導入メリットを考える》

《Finaleの基本操作を学べるリソース》

  • 譜例で操作方法を検索:Finaleオンライン・ユーザーマニュアルより。Finaleで可能なこと、それを行うための操作法が一目で分かり、初心者の方には特にお勧めです。
  • クイック・レッスン・ムービー:Finaleの操作方法や便利な機能などを30〜60秒程度の短い映像でご紹介しています。

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